highland's diary

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前島賢『セカイ系とは何か』文庫版の加筆について

2010年に刊行された新書版『セカイ系とは何か(ポスト・エヴァのオタク史)』の増補版が、2014年4月11日に刊行された。

どっちかというと副題の方がメインで、セカイ系の議論を通じてオタク史の流れを解説する内容だったわけですが、その文庫版では追加でこの2010年~2014年に起こった流れについても追加記述があって、ここ4,5年の流れの総括として良いかもしれないと思いその部分をメモ代わりも兼ねて自分なりにまとめてみました。

あくまで備忘録であって、建設的な議論を立てるためのものではないです。

    1. ヱヴァQ が旧版に路線回帰したような内容で若干の不安
    2. 旧版では、ラノベが自己言及性を持つ作品(『俺妹』や『生徒会』)と現代学園異能(『シャナ』や『禁書』)に分化していると書いたが→その後、両者を併せ持つ作品(『異能バトルは日常系のなかで』)の出現
    3. 「小説家になろう」から書籍化されるラノベ作品など(『魔法科高校の劣等生』など)=少年マンガ的(いわゆる俺TUEEE系だが、作者:前島賢はこの表現を使っていません)
    4. TV版まどマギ→ループ、世界改変、戦闘美少女など、ゼロ年代セカイ系/美少女ゲーム的想像力の集大成
    5. 艦これヒットの一因は、キャラクター商品として見たとき極めて高効率であることか。キャラクターの全貌を把握するのに要するプレイ時間が短くて済む。また、史実という原作があるので最小限のキャラクター造形を呈示しさえすれば史実という原作を参照してもらえ、手の込んだ設定を用意する手間分を省力化できる。加えて、作り手側の知識/こだわりにより目の肥えたファンを満足させることに成功した。ミリタリ知識はストパンガルパンなどにも応用が利く、など挙げられる。
    6. (「セカイ系はシリーズ展開やメディアミックスが困難」という本書のトピックと関連付けて)『魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』
      はそのことに自覚的であり、つまり、作品と市場のジレンマとして、ファンが作品を愛することでコンテンツは存続を余儀なくされ、大団円であった物語に新たな困難を呼び込んでしまう、という愛の逆説がテーマなのではないか(これについては、やや深読みが過ぎるかもしれないがという譲歩付きで)
    7. (ヤマトやガンダムの頃からして)オタク文化全体を通じて物語が作品の本質として捉えられてきたが、作品を<キャラクター商品>として整理すべき時期ではないか、という提言
    8. 近年の、 ラノベと一般文芸の中間小説とみなせるメディアワークス文庫
      ラノベ文芸賞のような新人賞の創設などは、ライトノベルにおける7.の流れの結果ではないか。つまり、従来はラノベの枠内で出ていたSF、ミステリ、青春モノなどの作品がその枠外で出るようになっている流れ?(前島賢は、今の時代にブギーポップが出ていたら、メディアワークス文庫から出ていただろうという例を挙げています)
    9. その上で、SF、ミステリ、ラブコメなどジャンル小説の中で自意識の問題を描いてしまうようなジャンル境界上の作品は(ライトノベルから)もう現れにくいのでは?とやや悲観的
    10. ボカロ小説という新機軸の出現
      とりわけメディアミックス展開の顕著なカゲプロ
      だが、作者にとってはイマイチ面白さがよく分からないとしている。

以下は自分の所感です。

4.に関しては、TV版まどマギではこれに加えてホモソーシャルな「日常系」の要素も指摘できます。なお宇野常寛も、TV版に関してはオールナイトニッポン等で同様の見解を述べていたかと。

(そして前島賢twitterでもこう言っていました)

5.に関連付けて、ギャルゲーの大作化/プレイ時間が長大化が衰退を招いたということも言えます。長くなったというよりも、携帯アプリのソシャゲやアニメなど他の、相対的に短く手軽にできてオタク内でのコミュニケーションツールとしても優れたメディアの方に人が移っていったのも大きいかもしれません。

8.で ラノベと一般文芸の中間小説として出て来ているものの中には、まさにこの文庫版の発刊元である星海社文庫も挙げられるのかなと思います。上遠野浩平とかとかも書いていますし、でも星海社虚淵玄奈須きのこ元長柾木、とかエロゲライター出身の人も結構呼んできてる印象がありますね。

 ラノベレーベルでもジャンル境界上の面白い作品が出なくなったということはないとは思いますが(前島賢さん本人も勿論そのつもりで書いてはいないでしょう)。

詳しく追ってはいませんがガガガ文庫一迅社でも面白い作品は出ているし、江波光則や石川博品などがラノベ読みの間では注目されているし十文字青も個人的に良いとは思いますが、やはり大枠としてはメディアミックス(アニメ、マンガ、ドラマCD化)に適したキャラクタ―商品としてのラノベが主流派になっているのだろうな、と。『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』ではプロダクトアウト→マーケットインという言い方をしていたように思います。

10.のカゲプロに関しては、村上裕一が『ネトウヨ化する日本』で、ストーリー面に重点を置いた詳しい論考を書いているとのことなので、個人的には気になっています。

 

セカイ系とは何か (星海社文庫 マ 1-1)
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