highland's diary

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『たまこラブストーリー』雑感

たまこラブストーリー、見てきました。
所感としては大きく分けて、よく出来たイニシエーションものだ!というのと、実写的な画作りが印象的だ、ということ。
 
以下、イニシエーションものとしてお話についてと、「実写的」というところから画的な話について書きます。
 
1.お話について
 山田尚子監督が公式サイトインタビュー(http://tamakolovestory.com/special/interview/  )「一人の女の子が自分自身に向きあおうとするまで、悩んで、色をつけていく様が描けていればと思います」)で言っているように、たまこラブストーリーは恋愛映画であると同時にたまこという女の子の人間的な成長物語として見ることが出来ます。
 
イニシエーションというのは、劇中のたまこの台詞「どんな時も近くにいて大きくなったから、」「何か、大人になっても(二人の関係は)変わらないと思ってたんだ」で分かるようにこのままの商店街での人間関係や状態にとどまろうとし、それまで恋愛アプローチに奥手で戸惑ってばかりでいたたまこがもち蔵からの告白に向き合い応えられるようになる、ということですね(映画観た人にとってはこんなことは言わずもがなでしょうが)。
 
で、もち蔵の東京への大学進学の予定を聞いて、このまま変わらないままではいられないことを悟り、朝霧さんのホームステイの決意(「最初は誰でも何もかも初めて」の台詞に勇気を貰う) や「『なかったことにして欲しい』はどんな時?」についてみどり達にアドバイスを貰い、それに後押しされる形で自分の気持ちに向き合い告白へと踏み出す、という構成につながる。
 
バトン部の舞台披露への練習が随所に挿入され、バトンを掴めるようになる、というところで糸電話掴めるようになることの示唆→告白できる準備ができる、という小道具の使い方の妙も見事でした。
 
バトンの発表が終わるのと同時にタンポポの綿毛が舞い上がり、EDまで随所に表れ象徴的に見せていました。
 
TVシリーズでフィーチャーされた商店街じゃなく、イベントが起こるシーンは主に学校中心(体育館、教室など)であり、だからもち蔵の連れの二人の登場シーンが多く、男性高校生らしくつるむ様子とかも出てました。
 
たまこの、うぶで可愛らしい部分が脚本でよく出せていたと思うとこは、もち蔵から告白受けた時に「かたじけねえ口調」になったり「もち→もち蔵」と何回も言い間違えるとかの部分。ややオーバーな感じもしましたけど、良い具合だったかと、そして極め付けはやはり告白シーンで最初糸電話を二つとも渡しちゃうとこで、「このクライマックスのシーンで上がってミスボケをする」あたりは、可愛い感じ出せてるなーと素直に思いました。
 
もう一つ。設定で、もち蔵は東京の美大の映像科を目指してるとのことが映画で分かりますが、もち蔵が映像科志望なのは 監督や作り手の自己投影か何かなのかな、と勝手に思っていたのですが、このエントリ(http://d.hatena.ne.jp/los_endos/20140420/1398003204)で書かれてあるように山田尚子監督がTVシリーズの方のオーディオコメンタリーで「実はEDはもち蔵がたまこを撮っている映像で、恋する目線を描きたかったのですね。」と発言していて、ああ、あれから後にTVシリーズの方のEDを撮ることになるから映像科なのかも、と一人合点していました。
と考えると、映画の方のEDも、もしかしてもち蔵が撮ることになる映像なのかもな、と思いますがそれだとやはりたまこ達が高校の制服着てるとこが引っかかる…...大学進学後じゃないの?て。
 
2.画的なところについて
 
たまこラブストーリー』 「もち蔵」という名前の意味と、山田監督が言う「映画」と、あんこちゃんがやたらエロいのは恋愛年齢が高いから - 感想考察批評日常 http://htn.to/CVpfCw 
 
上記の方々の記事が画的な分析として優れていると思いますので、詳しくはそちらの方を参照してもらうとして、個人的な所感をば。
 
「実写的」/「生っぽい」空気感、というのは本作においてはキーとなる「血肉の通ったキャラ仕立て」をする上で重要な役割を演じており、山田尚子監督や堀口悠紀子さんが今回の映画のインタビューで「意識した」と度々語っていることですが、これは同時上映の『南の島のデラちゃん』と比べるとよく分かります。
『南の島のデラちゃん』も山田尚子監督ですが山田監督コンテの本編と違い石原立也さんが画コンテ・演出を担当していて、そのカラーが出ており、ファンタジックな南の島が舞台なのもあってアニメ的なコミカルな表現が目立ちます(NT5月号インタビューで堀口さんは「原画さんにデラ愛が強い方が多くて」と言っていますが、実際見ても演技付けが凝っている感じがしました)。たまこラブストーリー本編でも2カットほど南の島が映るのですが、そのシーンと『南の島のデラちゃん』内のシーンの画を見比べると歴然の違いです。
 
実写的な画作りしてるな、とは冒頭の商店街のシーンから真っ先に思いました。実写的、というか「堀口由紀子キャラが動いているのをカメラを通して見ている感じ」な印象。最初の紹介あたりはちょっと演劇っぽい仕立てになっていましたが、冒頭、商店街から入るカットの時点で3DCGの立体的で重層的な空間/そして望遠レンズでピンボケで驚きま
した。
 
特に実写的だな、と思ったのはレンガ作りの建物の横でたまこやみどり達が弁当食べるとことかで、ピンボケ&奥行あるレイアウト&木漏れ日の当たってる表現で、非常に実写的な空気感だなという印象が強い。
実写的、という意味で特徴的だったのはやはり画面ポジ固定のジャンプカットで、もち蔵が部屋で落ち着かない様子でいるとことか、告白されたたまこが慌てて川から走り去るとことかそうですね。
 
あと多分1シーンだけですが早送りも。もち蔵が告白した後のシーン、教室でたまこともち蔵の距離感がぎこちなく、他の人が動く中二人が「硬直して動けない」感じの表現として上手い。

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アニメでジャンプカットや早送りで編集してる感じを出すのが何故実写的になりうるのか、というとジャンプカットとかはもともと実写由来の表現であるのというのも大きいですが、実写と違ってアニメの場合実際に人物撮っているわけじゃなくて(ロトスコだとまた別ですが)キャラクターを一から起こしているわけなので「実際にそこにいるキャラを撮って編集しているように見せる」とか何らかの意図込みでないとそのような見せ方(ジャンプカットや早送り)はふつうしないからじゃないかと思っています。
また、これは人から聞いたのですが実写におけるジャンプカットっていうのは「本来ふつうにつなげるし、滑らかにつながるはずのカットを、あえて違和感の残るように滑らかではないカット割にする」というところに眼目があるけど、「アニメは実写ほど多分「滑らかなつなぎ」にこだわってないので(ジャンプカットは)実写っぽく見える」という説明を聞きました。
 
そしてもう一つこの「実写的」な画の話として重要なのは、劇場版本編はデラがいない状態から始まるということで。
TV版『たまこまーけっと』では商店街においてデラ(そしてのちに出てくる南の島の王子やチョイ)がファンタジックな部分を肩代わりしており、TVシリーズ1話冒頭でデラが出てくるまでの、たまこたちが橋を渡って下校する下りでは山田尚子監督は「実写感」を出すことに注力していますが(『アニメスタイル003』でのインタビューより)、デラ登場後は作り物らしい、コミカルな画作りや表現を交えつつ話が進むことになります。デラ以下南の島の面々の登場シーンがほぼない映画本編はむしろ、TVシリーズ1話冒頭の映像の感触が近く、デラが来なかったver.の『たまこまーけっと』をやっているような感じですね。

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(なお、『アニメスタイル003』での山田尚子インタビューで言っていた内容の中で関連するものとしては、キャラクターが恥ずかしがるシーンでも石原立也さんは真正面からキャラを撮るのに対し山田尚子さんはカメラを下に振ることが多い、ということで、『たまこラ』でも膝下のカットからシーン導入に入ることは多く空気感を出すのにも一役買っていた印象があります。あとは諸所のインタビューでも公言しているように彼女自身のフェティシズムによるところも大きいでしょう)
 
実写的という話をしましたがずっと実写的というわけではなく、もち蔵の告白後たま子が逃走するシーンでは幻想的な画になりエモーショナルな走りを見せたりもします(5/30補足:このシーンはコンタクトを落としてぼやけたたまこの視界→心象世界へつながるイメージ、とのこと。手描きの背景とCGを合わせて水彩画風の背景画を作っているようです(「Newtype2014年6月号」より))。
コミカルな表現もちゃんと映画内に同居しており、たまこがもち蔵を前にして動揺するシーンではコミカルな表現がよく交じり、お化け(手足の動く影を表現する技法)が入ったりしており、それでいてちぐはぐにならず良い具合で入っていて計算されていると感じました。
 
個人的に良いカットだと感じたシーンはいくつかあって、前半で糸電話を渡した際に糸が虹色に光って弦に見立てられメロディーが流れる表現はよく出来た演出と感じ、銭湯であんこが髪を結んだりたまこが服を脱いだりしている演技とかは扇情的なニュアンスも出ておらず、演技付けが細かく女性らしくていいなと感じました。
 
カメラの手ブレも上手く役割を果たしており、商店街でたまこがもち蔵に遭遇したシーンのカメラブレなどは動揺する心理表現と呼応した表現になっていました。
 
余談ですがエモーショナルな走りのあるアニメは
、それだけで名作になる!気がします。時かけとか。

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しかしやはり白眉は満場一致で告白シーンでしょう。糸電話をフォームを取って、投げて…と
1カット1カット一挙一動足を追う丁寧でエモーショナルなカッティングで目を惹きつけられる屈指の名シーン、そして最後告白の台詞と共にスパッとED入りする構成も思い切りが良くていい。

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見終ってすぐにもう一回見たくさせるような、気持ちのいい映画でした。
 
ただ、劇場パンフレットの最後頁で後日談の画を出すのはいいとして、その画を、ED後のCパート部で1カットくらいのシーンで出しても良かったんじゃないかな、とは思いました、パンフ買った人だけが後日談を味わえる、てのもどうかなとは思うので。