「異能バトルは日常系のなかで」は、カレカノを継ぐもの http://royal2627.ldblog.jp/archives/41537816.html
イアキさんの、上の記事が、小倉陳利さんの演出のまとめとしても極めて良い記事だった。付け足しながら引用してみると、小倉さんのコンテ(と大塚演出)の特徴として挙げているのは、
(1)構図の手法
横顔ドアップ抜きで目元・口元(感情)隠す
同ポ、ポン寄り、その逆の多さでテンポを出す
(2)止め絵の手法
バンクの積極的使用
顔隠しの絵作り
(3)深刻なシーンの描き方
シリアスな場面を直接的に描写
回想シーンのインサート方法(ネガポジ反転、彩度落としモノクロなど)
と網羅的で良い指摘。『カレカノ』『異能バトル』だけでなく、小倉さんが直近では最も多くコンテを切っていた『新世界より』での演出なども、基本的にはこの方法論に則っているし、こうした手法を多く使っているように思います。
小倉陳利さんの演出については、まっつねさんの、
小倉陳利さんの演出感は摩砂雪と鶴巻を足して二で割らなかったような良さがある。 新エヴァには足りない、摩砂雪と鶴巻がTVシリーズを通して作ってきた「エヴァっぽさ」を一番継承しているのはきっと小倉さんでしょうね。
という評も、的を射ているように思います。小倉さんというとまさに『エヴァ』っぽい構図とカッティングの使い手。
小倉さんといえば、アニメーターとしても旧劇エヴァや『ケモノヅメ』での仕事などが有名ですが、TV版エヴァに原画として参加後、『カレカノ』『フリクリ』にメインで参加し演出家として個性的な仕事を見せた、名実ともにオールドガイナとニューガイナ世代の結節点を象徴するような存在。
TV版『エヴァ』といえば、演出は基本的には効率論で出来ていて、
ゲンドウのこのポーズにしても、この一枚絵だけでキャラとして成立するようなものでありながら、目元さらに口元を隠すことにより、まずは口パクに要する(作画の)枚数を削減。ゼーレのメンバーも基本的にはモノリスのような石版で表現され、姿が出ず演技もありません(演技に要する枚数の節約)。また、こういった表情が出ない描写によりキャラの心情をこちら側に想像させ深みを出している、上手い表現なわけですよね。
『エヴァ』に関してはキャラの場所移動の描写の省略、戦闘シーン以外は止め絵中心の構成、ミサトの目元に影を落とし黒塗りで隠す描写など、大雑把にいえば枚数を省略しつつキャラの奥深さを出す描写を積み重ねる、そして節約した分の作画リソースを戦闘シーンに多く配分する、という方法論を選択していたことは、常識というか今更特に説明を要さないことだと思います。
小倉さんも基本的にはこの方法論に則っていて、
たとえば『フリクリ』4話での、
取り調べ室の中で話していたアマラオとナオ太が、
時系列前後するシーン挟んで次のシーンでは外に出ていたりする(移動の描写略)のもそれに則ったもの。
バンクの多用についても、コンテ担当した『Angel Beats!』12話の絵コンテ抜粋を見ても「同ポ(カメラ位置同じで同じ背景を使用)」「カット兼用」の指示書きが多く見られます。余談ですがAB!に平松さんと共に元ガイナ組として参加したのは、元ガイナの平田雄三さん(AB!のキャラデ総作監)の縁でしょうか?
小倉さんの演出の特徴については上掲のイアキさんの記事でかなり指摘されていますが、自分的にポイントだと思う特徴について補足(蛇足?)する形で書いてみようと思います。
まず、
(1)シンプルな横位置・縦位置・正面顔のレイアウト多用
小倉さんが過去にコンテを担当した作品からいくつか抜き出してみる。
・『フルメタル・パニック!』8話
・『新世界より』4話
・『異能バトル日常系のなかで』6話
(余談ですがここは撮影での強いボカシも驚いた)
基本的に人物は横位置・縦位置で配置し、キャラを正面から捉えたレイアウトが多い。この辺も『エヴァ』っぽい印象としても繋がる所ですが、キャラを正面や真横からカメラで捉えていて、秩序的でやや硬質な印象も受けます。
(2)ポイントとなるシーンでの独特のカットワーク
のカット繋ぎなんかはまさに顕著な例だと思います。コンテ段階でここまで不気味な「よく分からない」描写を盛れるのも凄いですがw
足の間からキャラを映すカットについては、一枚絵で映画的な立体感や臨場感を醸し出せる優れたレイアウトですね。国産TVアニメ第一弾の『鉄腕アトム』の頃から使われているものです。
あとは、「じわPAN」に加えキャラの心情に寄っていくような場面での「じわT.U.」、その逆に突き放すような場面での「じわT.B.」などカメラの動きを割と細かく指定しているようにも感じますがこの辺についてはコンテというより演出による指定が大きいのかもしれません。
あとは、鏡面にキャラを映すようなレイアウトも多いですね。これもレイアウトの機能底上げと絡む所と、内面描写とからでしょうか。
・『Another』11話
・『新世界より』17話
・『異能バトルは日常系のなかで』6話
特徴としてはこういった所でしょうか。独特のカットワークに加え、兼用カットを重ねてリズムを作ったり、『フリクリ』4話のような奇妙なポージングとか、アングルとかも持ち味だと思いますね。『新世界より』『Another』といった作品に参加している所からも分かるように、ホラーっぽい描写を得意とする人でもあります。
『Another』のこれ
とか、
『フリクリ』の
これとかの感じですね。『新世界より』でも、18話などホラーサスペンス調の話を多く担当していました。
また、個人的に『異能バトルは日常系なかで』3話は小倉さんの持ち味もありつつ演出的に上手いと思ったところがいくつかありとても良かった。
なのですが、彩弓の回想シーンを挟んで
次に4人が映るシーンでは千冬の立ち位置が彩弓側の上手に移動!これは彩弓の語る内容に千冬が同調してるのに合わせてでしょう。回想シーンの間に移動しているというこのさり気なさ!移動に要する「枚数の節約」という点でもこれはポイント。
また、もう一度回想シーンを挟んで更に2カット後、次に4人全員が映るカットでは
画面内でのキャラの上手・下手の立ち位置が逆転しています。
先ほどまでとは逆に灯代・鳩子が会話の主導権を握り(上手)、彩弓らがそれに同調する側(下手)に回ったことを画面位置で表現する、基本に則っていながら上手い描写!
また、この回は灯代の義兄、桐生一の初登場回なのですが、
登場シーンのファーストカット(安藤と遭遇)から一貫して画面の上手側にいた桐生が、喫茶店でのシーンで、
直前の、この画面上手側を背中で埋め尽くすような位置から逆転、
妹である灯代の登場と共に
灯代を上手側に配置した下手側へと移行!
と、この二人の関係性を表すような表現になっている。
アニメーターとしても天才だけど、コンテも上手いなあ、ホントに。小倉さんが、『パンスト』以来久々にガイナ・トリガー系列でコンテを切っているという意味だけでも『異能バトル』は貴重な作品。大地さん回や7話の望月さん回も良かったし。
『異能バトル』に関してはもう少し書きたいくらいですがひとまずこれくらいで。
あとそろそろ、年末なので「話数単位で選ぶ、2014年TVアニメ10選」も書いてみたいですね。
今回は以上です。