highland's diary

一年で12記事目標にします。

OVA版『YU-NO』('98~'99) を見てみる

 

anime.dmkt-sp.jp

単純にマルチエンディングのADVゲームを線的なストーリーで進行するアニメに翻案することの難しさについては京アニ東映によるKey作品の映像化といった卑近な例を見てもその苦労の跡が見えるのであって、また、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』('96)は、ともすれば電脳紙芝居と揶揄されがちなギャルゲージャンルにありながらそのゲームシステムにおいて高く評価されたゲームであり、ゲーム的なゲームをアニメ化するこの試みが成功を収めることの厳しさについては、『動物化するポストモダン』で『YU-NO』の紹介を読んでおらずとも察せられるのではないかと思います。

この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』のゲーム版リメイク及びアニメ化を手掛けているのがMAGESであるというのは納得が行き、それこそ『Steins;Gate』のような「マルチエンディングでありながらトゥルーエンドを持つギャルゲー」の先駆けとなった大元の作品でしょうし、並列世界のようなモチーフや設定の作り込みも、5pbの「科学アドベンチャーシリーズ」等を展開しているMAGESとは親和性の高さを感じさせます。

ただ、『Steins;Gate』は当初よりアニメ化の構想を込みで制作されていたでしょうし、また、主人公の動機も明解であり、映画的な構成をとって一本道のストーリーに収束していく筋道は非常に分かり易かったと思います。何よりそれぞれのキャラクターにキャッチーな魅力があり十分に視聴者を惹きつけるに足るものでした。その点で『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』はやはり次元が異なって来るなと感じます。

期待値の低さを述べたようになってしまいましたが、これを書いている時点でアニメ版は9話まで放映されており、見る限りでは存外それらしい齟齬は起こしておらず「リフレクター・デバイスで用い主人公がプレイヤーと同様に過去に戻ってやり直している」「最終的な動機は父を探し出すことでそのためにアイテムを集める」「各ルート終わりになると主人公は元に戻され別ルートを辿り直す」の三点が大掴みに理解できていれば支障なく見れるようになっています。主人公の主観で物語を線的な流れとして捉えることでスムーズにアニメ化が可能になっているのでしょうか。自分の見立ては単に原作未プレイ者の杞憂であったのかもしれません。

どちらかというと『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』(2019)のアニメを見始めたときに感じたのがリアリティの齟齬でした。

元のゲーム版で長岡康史さんが手掛けた原画から、リメイクの時点でグラフィックが刷新されてはいますが、その上にアニメ版はキャラクターデザインが大塚舞さんで制作会社がfeelという『この美』ラインの作画陣であり、そのちょっとしたチープさが親しみやすさに繋がっているようなデザインは、『YU-NO』のハードなリアリティと果たして相性が良いかというと疑問が残ります。主人公の振る舞いが時代がかっているというのもありますが、アニメを見ていてもキャラクターの言動や台詞は’90年代のままでキャラクターのリアリティだけ2019年になってしまったようなちぐはぐさはどこか付きまといます。最初に配置されているルートが未亡人となった義母との恋愛というのも、今のアニメファンからすると生々しさのある題材ですよね。

他方で、先に放映された話数における澪のルートでの関係性の発展など、随所に光る演出も見られ、瑕疵を補って余りあるだけの真価は有しているのであって、このシリーズの鑑賞もやはりゆるがせにはできないでしょう。

 

さて、一部ではよく知られているように、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』('96)がアニメ化されるのはこれが初めてではなく、'98年~'99年にかけて成年向けアニメとして映像化され、全4話のOVAが発売されています。

手元にあるのはDVDで出た『YU-NO the Best』で、OVA全4話分を一枚でまとめたもの。

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 (DVDジャケットになっているキャラはおそらく澪とユーノ)

前半2話は監督が金澤勝眞さんで、ウィキペディアには『School Days』と『Gift』の演出家としての仕事が紹介されていますが、この人は『蛍子』という猟奇ホラーアニメの傑作を手掛けているし、また、りんしんのエロアニメ時代の名作『新世紀 淫魔聖伝』に原作として関わっていたりと、個人的にも信頼度は高い演出家である。また、作画監督高橋丈夫さん*1がいたり、後半のキャラクターデザインを『とある』シリーズで知られる田中雄一さんがやっていたりと謎にスタッフに恵まれているアニメでもある。
原作未プレイの身ですが、ゲーム版のシナリオを知らない分かえってフェアに見れるかもしれないと思い、このOVA版も見てみることにしました。概ね第一話および第二話が現代世界編、第三話および第四話がファンタジー世界編の二部構成になっているので分けて紹介することにしたい。

 

第1幕「誘惑する事象たち」, 第2幕「不連続体のコンチェルト」

とにかく冒頭がまずぶっ飛んでいる。

「会いたい…会いたいよ、パパ」(女の子の声)
剣ノ岬で待ち合わせをしているたくや
「あゆみさんたち、一体どこに行ったんだ?」

 

岩陰で美月とあゆみがやり取りしている。
「私たち、親友じゃない…」
美月があゆみに強引にキスする。
たくやはそれを覗き見ている。

 

突然たくやの横で緑色の光が現れて
少女(ユーノ)が出現
たくや「きみは一体…?」
少女、たくやに指輪をはめたのち消滅。

 

美月、たくやに気付き銃を突きつけ
指輪を渡すように迫る。
美月を止めるあゆみ

 

美月の発した銃声が鳴り、岬の離れた場所にいた澪が振り向く。

三人(美月、あゆみ、たくや)のやり取りをのぞき見している澪
澪の横にいきなり神奈出現。

 

次いで三人と二人それぞれの前に緑色の光出現
→皆違う次元に飛ばされる。

 

タイトル入り前の冒頭3分足らずでこれらの展開が矢継ぎ早に起こり、この場面でキャラクターを全員出して後の伏線となる描写を入れているのだが、初見だとキャラクターが誰で何が起こっているかも分からないし頭がおかしくなりそうな編集である。

OVA版だと主人公はリフレクターデバイスを持たず冒頭でユーノに渡された指輪の力で様々な次元(事象)に飛ばされているらしい。父親は全く登場せず、そのせいで主人公の動機が明確に定まっておらず色々な場面を連ねたような作りとなり、やや散漫な構成になっているのは否めない。

 

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キャラデザインの話ですが、OVA版のキャラクターデザインは骨格がしっかりしており陰影の描写も細かく、作画はこちらの方が2019年のTV版よりも良い。月並みな言い方であるけれどストーリーの奥行きを感じさせるデザインというか。ここから見るとTVシリーズのキャラデザインののっぺりした平板さが目立つ。

一方で(『AIKa』シリーズよろしく女性キャラクター全員がノルマのように全員パンチラしていくのがシュール過ぎるのは別としても)性行為シーンの挿入が唐突であったり、キャラのパーソナリティが見えなかったりと脚本や構成にはやや粗雑なところが目立つのが瑕疵といえる。

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保健医・絵里子先生のキャラデは完全にOVA版の方が良い(ちゃんと煙草吸ってるし)。

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澪は(テイストは違えど)ほぼ唯一デザインがあまり変わっておらず、どちらかというとTVアニメ版はOVA版のキャラデザインを現代風にリファインした感じになってますね。

 

OVA版で最も目につくキャラ改変は朝倉香織である。

TV版だと原作と同じくジオ・テクトニクス社の不祥事を糾弾するニュースキャスターであるが、OVA版だと他校の女子校生という設定になっている。

ジャーナリストであると同時に産業スパイであるという元の設定はある程度共有しつつ、ニュースキャスターの要素はオミットされ密かにたくややあゆみに接近し企業秘密強奪を企てる女子校生キャラに。あゆみの研究と企業秘密、報道とのつながりを描いている尺の余裕がないため改変したのだと思われます。

 

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上画像の場面で香織が(TV版と同様)超念石をジオ・テクトニクス社から盗み出すために石で水槽を叩き割ってそのタイミングでアラートが鳴るのだが、そこで駆けつけて来るのが別室で情事のやり取りをしていた美月とあゆみの二人のみである。これだと研究開発・運用を行っている作業員があゆみだけみたいな小さいスケールの印象になってしまうし、流石にこれは無理がないか…? 

また、香織は何故か女子校生の多数属する円光クラブのような場所の元締めをしており、神奈もそこに所属している。

 

OVA版は成年向けアニメですが、 前半2話に主人公が絡む性行為は一切なく、正気を失った澪を始めとしたインモラルさ漂う同性同士の絡み、美月によるあゆみへの誘惑、円光女性校生数人から企業秘密を迫られあゆみが受ける百合強姦*2、あゆみと豊臣との意に添わぬ形の性交など、どうもセックスをグロテスクなものとして描こうとする趣向が垣間見える。この辺りは金澤さんの作家性なのでしょうか。

 

それにしてもエンディング入りで最初に出るクレジットが「企画:乱 交太郎」なのは何とかして欲しかった。いや、成年向けアニメに変名クレジットが多いのは理解しているつもりですが、流石にこれは笑わせに来ていないか…?

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第3幕「分岐点のシンデレラ」, 第4幕「世界の果てで女神は唄う」

後半はファンタジー世界編である。

2話ラストで、指輪を道しるべとして主人公は未知のファンタジー世界へ旅立っていく(というかいきなり異世界に飛ばされる)のだが、ストーリーはそこから始めるのではなく、たくやと同じくらいのタイミングでたくやを追ってこの世界へトリップしてきた澪の視点からスタートする*3

澪が降り立ったファンタジー世界においては何年も経過しており、たくやは妻子(セイレスとユーノ)とともに家庭を築いており澪はいわゆる浦島太郎状態である。後からたくやの過去回想シーンが入り顛末が明かされるようになっている。

 

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ファンタジー世界で初めて登場したユーノやセイレスは田中雄一さんのキャラデザインですが、前半の青木哲朗さんキャラデのテイストとはまた異なり’90年代ラノベチックなキャラデ(『フォーチュンクエスト』の人とかをちょっと思い出す)に仕上げており抜群にアニメ的なセンスを感じさせますね。特に第3話の作画は素晴らしい。

 

後半2話では前半2話で出た現実世界のヒロインたちも皆登場し、加えてファンタジー世界でのキャラも加わるので大変ストーリーが混みあっているのですが、

OVA版で描かれている限りのメインストーリーをまとめると、

テラ=グラントという場所にある神殿ではこの世界の事象を全てコントロールすることができる。たくやとセイレスの子として育ったユーノはそこに連れ去られていき、たくや達の記憶を失くし世界の運命を導く巫女として祭り上げられる。

終盤でたくやは変貌したユーノに迫るがその姿を見てユーノとは気づかず斬りつけようとしてしまいその報復として致命傷を負ってしまう。

ユーノはその後たくやから指輪を託されたのち他次元に旅立っていき、(現実世界での)いくつもの並列世界におけるたくやとヒロインたちのハッピーエンドルートを目撃していく。

ストーリーは円環構造をなしユーノは冒頭のたくやとの出会いのシーンまで戻っていく。そして今回は全ての記憶を持っているらしいたくやと共に、二人は次元の彼方へと旅立っていくのだった。

 みたいな話でしょうか。

 

実際見てみるとおそらくオリジナル要素と原作のストーリーとで多少強引なかたちで辻褄を合わせており、また全体的に原作のダイジェスト的なものになっているのは否めないですが、エンディングにおいて冒頭シーンに帰って来る円環構造であったり、ファンタジー世界でのキャラの関係が現実世界に帰って行ったりと、恐らく原作にもあるであろうエモのポイントは感じられます。

澪のパーソナリティは前半と後半とで連続しており、全体を通じて比較的ちゃんと描かれているように感じました。そういえばOVA版でも結局神奈はどういう存在なのかはよく分からないままだったような気がします。

OVA版は原作信者からは糞改変と叩かれているようなのですが、原作未プレイの私からすると、もちろんダイジェスト感や破綻は無視できないけどそんなに悪いアニメでもないし、随所に好きな表現もありで、これはこれで良いんじゃない?と言いたくなる、そんな作品でした。

最後に、これから見ようとする人も少ないだろうので作画オタクにならってクレジットを起こしてみる。何か参考になれば幸いです。

 

第1幕「誘惑する事象たち」

監督 金澤勝眞
キャラクターデザイン 青木哲朗
脚本 工藤治
作画監督 高橋丈夫 作画監督補佐 瀬上幸雄
原画
瀬上幸雄 石丸賢一 田野光男 清水勝祐
綾奈舞衣 森山孝治 吉本拓三 木村剛
桜井正明 小川敏明 島田大助 川合正起 Gユニット

 

第2幕「不連続体のコンチェルト」

監督 金澤勝眞
キャラクターデザイン 青木哲朗 石原恵
脚本 工藤治
絵コンテ協力 ももいさくら
作画監督 石原恵 瀬上幸雄
原画
加藤やすひさ 石野聡
高橋丈夫
木村剛 土肥真 服部憲知 桜井正明 川合正起
スタジオアングル
加藤真人 小川敏明 島田大助 佐藤博之 HEE WON Co.

 

第3幕「分岐点のシンデレラ」

監督 矢越守(矢吹勉)
キャラクターデザイン 田中雄一
脚本 工藤治 かついまさお
絵コンテ 矢吹勉 絵コンテ協力 ももいさくら
演出 緒館比野麿 作画監督 七海修
原画
田野光男 瀬上幸雄 絵務師 清水勝祐
服部憲知 加藤真人 桜井正明
小川敏明 川合正起
スタジオアングル

 

第4幕「世界の果てで女神は唄う」

監督 矢越守(矢吹勉)
キャラクターデザイン 田中雄一
脚本 工藤治 ももいさくら
演出 山内博美 作画監督 中森吉春
原画
神原敏昭 黒山柳一 青柳重実 小橋正弘
藤宮博也 嘉村弘之 木村剛
丸英夫 南雲公明 今井武志 新井憲 八木元喜

 

*1:後に『狼と香辛料』シリーズ等を監督。エロアニメでは『そらのいろ、みずのいろ』を監督し高い評価を得ている。

*2:「百合テクで~」という表現が作中では使われている。

*3:澪がここでファンタジー世界にやってくるのはオリジナル要素らしい。